銀座 古書の市

例年、松屋銀座にて開催される「銀座 古書の市」のお知らせブログです。

浮世絵の初刷りと後刷り [原書房]

現代の版画作品と違い、浮世絵にはエディション番号がありません。大衆メディアとして発達してきた浮世絵ですからそもそも美術品や限定品のような概念がないのです。
さて、お客様によく聞かれることが「これは初刷りかい?」
難しい質問です。浮世絵で「初刷り」というと一般的には初めの200枚位までの極刷りの良いもの(細かい線がシャープに刷れているもの)を指します。木版画ですから後になるほど版木が摩滅してきて線が粗くなります。厳密には「どこまでが初刷り」ということはないのですが、中には初刷りには色数が多かったり、ひと手間多かったり、版画違ったりするものがあります。
目録の54ページに掲載した42番と43番に、歌川広重東海道五十三次 小田原 酒匂川」天保4年、がそうです。

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↑42番 こちらが初刷り

 

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↑43番 こちらが後刷り

 

背景の山の形がぜんぜん違います。川辺にいる人足の数も違います。何かの理由で版木そのものを彫りなおしているのです。
通常初刷りは絵師の意図を一番反映しているものと考えられます。刷り始めるにあたって絵師が色使いや刷り方について刷り師に細かく指示するからです。しばらくして絵師がいなくなると刷り師は手を抜き、顔料がなくなれば別の色を使ったりします。でも版木を彫り直すということは、誰かの意思(絵師や版元?)が働き、後刷りの図のほうが良いと判断されたわけです。
...この図を見ると初刷りの方がダイナミックでカラフルで良いように思います。版木が壊れてしまったとか、そういう理由なのでしょうか。

さて、皆さんはどちらがお好みですか?会場でぜひ見比べてください。

ところで、最初のお客様の質問です。もちろん初刷りと後刷りで明確な違いのないものもが殆どなので、大概は「早いほうです」とか「遅いほうです」しか答えられないのです。で、上で述べたようなことをがんばって説明するのですが、海外のお客様、特に中国の方はますますわからない、という顔をなさいます。単に「本物かどうか」ということを聞きたかっただけだけなのに、両方とも本物なのに絵柄が違うし、値段も10倍、時には100倍も違うのですから。
ここが浮世絵が中国の方にあまり人気がない原因かとも思います。何百万も出して好きな浮世絵の初刷りを買ったのに、家に飾ってあるその江を見たお友達が他の人に「あれと同じのが8万円で売ってたよ」とか言いふらされては面子丸つぶれですからね。